大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)46号 判決

控訴人(原告) 井上鶴彦 外三名

被控訴人(被告) 村野利三

主文

原判決を取消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求める判決

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、大阪市に対し二億〇六七八万〇二〇〇円を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

次のとおり付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  控訴人ら

1  被控訴人は本件事業の施行に必要な権限と責任を付与されていたものである。

2  仮に被控訴人が本件仮換地指定処分等をする権限を有せず、市長又は局長に意見を具申する補助者であるとしても、本件仮換地指定処分は被控訴人の意見に基づき局長がその意見どおり裁決し、その結果大阪市に損害を与えたものである。すなわち、被控訴人は局長を補佐する職務を怠り、職務権限を有する局長をして不当な本件仮換地指定処分等をなさしめ、当該損害に対し間接的な原因を与えた職員である。

地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「職員」には、被控訴人のように当該損害に対し間接的な原因を与えた職員をも含むものと解すべきである。

二  被控訴人

控訴人らの前記主張を争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因(一)の事実、同(二)のうち被控訴人が大阪市都市再開発局大正土地区画整理事務所長であり、大阪都市計画事業大正地区復興土地区画整理事業の施行者である大阪市長を補助するものであること、同(三)のうち諮問案が審議会に諮問されたこと(ただし、被控訴人が諮問したとの点は除く)、審議会がこれを否決したこと、諮問どおりの仮換地指定処分がなされたこと、大阪市と占有者との間で補償金二億〇六七八万〇二〇〇円の営業補償及び移転補償を内容とする補償契約が締結され、昭和五五年七月九日までにその内金として一億八一七三万八二〇〇円が支払われたこと、同(四)の事実、以上の事実は当事者間に争いがない。

二  ところで、本件訴訟は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき大阪市の住民である控訴人らが同市に代位して被控訴人に対して損害賠償を請求するものであるが、その主張にかかる損害賠償の内容は、大阪市の職員である被控訴人が、自ら固有の権限に基づきまたは大阪市長を補佐する立場において、違法な仮換地指定処分をし、これに基づく補償金契約を締結し、補償金を支払つた結果、大阪市に損害を与えたから、同市に代位してその損害の賠償を求めるというものである。

しかし、そもそも地方自治法所定の住民訴訟は地方公共団体の事務またはその機関の権限に属する事務全般を監督する制度ではなく、地方公共団体の財政上の腐敗行為を防止、匡正するための制度であるから、住民訴訟の対象となる行為は、地方公共団体の財務会計上の処理を直接の目的とするものに限られるものである。そして、土地区画整理事業は、都市計画区域内の土地について公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため土地区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいい(土地区画整理法二条一項)、その施行者が知事あるいは市町村長であるいわゆる行政庁施行の場合であつても、その知事、市町村長が行なうところの換地処分あるいはその換地処分に至るまでの間、工事の施行その他の必要上暫定的な土地使用関係の変更をする仮換地指定処分等は、すべて整理事業施行者としての立場で行なう処分であり、かつ右仮換地指定処分がなされた結果、建築物等を移転除却する必要が生じたときは、事業施行の一環として施行者(施行者が市町村長である場合には当該市町村)から建築物所有者らに対して一定の損失補償が行われるものである(同法七八条)。

右の土地区画整理ないし仮換地指定処分や損失補償の性質に照せば、控訴人らが本訴において大阪市に代位して損害賠償請求の内容としている本件仮換地指定処分とこれに伴う補償金契約やその支出は、地方公共団体の財務会計上の処理を直接目的とした行為すなわち地方公共団体の公金、財産、営造物等に対する管理、処分行為とはいえず、地方自治法二四二条の二に規定する住民訴訟の定型に該当せず、その対象とならないものといわなければならない(最高裁判所昭和五一年三月三〇日第三小法廷判決、裁判集民事一一七号三三七頁参照)。さらにこれをふえんすると、本件仮換地処分の結果、大阪市が土地占有者との間で補償金契約を締結しその補償金を支払つたことは前述のとおりであるが、それは土地区画整理法の規定により仮換地指定に伴い土地区画整理事業の一環として法律上当然に生じる支出行為であつて、事業施行の過程で定められた金額内の支出である限り、大阪市長あるいはこれを補佐する被控訴人が、地方公共団体の財務会計的処理として公金を違法または不当に支出したことには当らないものといわねばならない。

そうすると、控訴人らの本件訴は、住民訴訟として法が許容している範囲外の行為を対象としているものであるから、不適法な訴であるといわなければならない。

三  よつて控訴人らの請求を棄却した原判決を取消し、本件訴を却下したうえ、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 広岡保 森野俊彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例